編集手帳 (読売新聞1989年9月18日) 〈公用文には片仮名言葉を極力使わない〉。例えば、コンセプトはやめて概念とか基本的考え方とかに書き換える。厚生省の「用語適正化委員会」が、そういう報告書をまとめたという◆片仮名言葉が外来語を指しているのは、いうまでもない。日本人流に発音し、日本語の文法にあてはめて使っている舶来語のことだ。諸外国から文化の一部として入り込み、一般に広まった借用語でもある◆カルタ・タバコ・パン・ガーゼ・ピッケル・ゲートル・ブラジャー・アトリエ・グラタン…。これらは、長い歴史の間にすっかり日本人の日常生活の中に根づいた言葉だ。当然、だれもが誤解しない◆ところが、最近の次から次へと押し寄せてくる片仮名語はどうだろう。あぶくのように消えたかと思うと、また別のがやってくる。死語になったのも含めて、その数は優に数万に達していよう◆これでは、消化しきれるものではない。失礼ながら、特にお年寄りには意味不明の言葉を目にされて立ち往生ということが多いのではないだろうか。現代は〈ちんぷんかんぷん語〉の氾濫時代だ。◆それも、最近は官公庁に多用の傾向が目立つ。舌をかみそうな横文字の仮名化と手前勝手の解釈語の押し付け、その〈知らしむべからず〉の姿勢は厚生省ばかりにあるのではない。