You are at:

Site Navigation

私たちはなぜ存在しえたのか ― 宇宙・生命・意識の起源

Stacks Image 19
私たちは皆、意識を持った人のひとりとして、この世に生まれて来ました。これは紛れもない事実です。では、私たちは「なぜ」この世に存在しえたのでしょうか。単なる偶然だったのでしょうか、それとも必然だったのでしょうか。 

私たちの一日は、朝起きて目を覚まし、今日は何をする日なのかを考えることから始まります。普段は、メールにさっと目を通し、朝飯を駆け込んで、通学や通勤から始まる日常生活に追われているかもしれません 。それでも、空いた時間に音楽を楽しむ人もいれば、スポーツに打ち込み人、旅に出る人、そして読書に耽る人など、 皆さんそれぞれ余暇を楽しく過ごしていることでしょう。そしてたった今あなたは、どういう訳か縁があって、この本を読み始めています。

そこで、いっそのこと思いっきり立ち止まって、一緒にとことん考えてみませんか。 私たち人間とは一体何者なのでしょう。そして、そもそもどこからやってきたのでしょう。 最先端の科学は、どこまでそれを解明してくれたのでしょうか。

春になって近くの野原に目をやると、 新緑が芽生え、小さな花が咲き始めているのに気づきます。その根元には小さな蟻が群がっていて、せっせと餌を運んでいるのにしばし見とれます。あるいは、 ゾウリムシのように更に小さな生き物を顕微鏡で覗くと、その巧妙な動き方に目を奪われます。ダーウインの進化論によれば、私たち人間も祖先は実はこんな単細胞の生き物で、そこから進化したのだと考えられています。では、その単細胞の生き物のそもそもの始まりはなんだったでしょうか。 

冬の空気の澄んだ夜に、外に出て 空を見上げると、暗闇に浮かび上がる無数の星の輝きに引き込まれてしまいます。自分はなんてちっぽけな存在なんだ、宇宙の果てしない大きさに思いを馳せます。一体、この宇宙はどこまで広がっているのでしょうか? 果てはあるのでしょうか? そして、そもそもこの宇宙に始まりはあったのでしょうか?

私自身、高校時代は山に魅せられてワンダーフォーゲル部に属し、暇のある毎に、日本中の山を歩き回っていました。そして、冬の雪山の凍えるような寒さの中、夜中にテントから外に出て空を見たときの星の美しさに、背筋がぞくぞくするほど驚愕しました。また、初夏の南アルプスの真っ青な空の下、お花畑を歩き抜けては、 辺り一面咲き誇った花の美しさにしばし足を止めては見とれたものでした。どうして星の輝く夜空やお花畑は、心が揺さぶられるほど美しいのでしょうか。 なぜそれらはそこに、そのようにあるのでしょうか。 そしてそれらの美しさに揺すぶられている私の心も自然の一部だとしたら、どうしてそれは揺すぶられるのでしょうか。そういった私の感情、意識はどこからくるのでしょうか。

「一体、自分も含めた自然はどんな仕組みで成り立っているのだろう。何かそれをうまく説明できるような法則はあるのだろうか?」 そんな思いで自然の基本法則を学びたく、大学に進みました。その時は、たぶん物理学が一番基礎なのだろう、そこから学ばなければことは始まらないだろうと漠然と考え、物理を専攻することにしました。若くして、 小柴昌俊先生の一学生として神岡のニュートリノ実験の立ち上げに参加するという幸運にも恵まれました。

その後、サイエンスの現場にもっと触れ直接参加しようとアメリカに渡り、気がつけば四半世紀が過ぎました。その間、カリフォルニア大学に身を置いて興味の向くまま研究生活を続ける中、物理学、天文学、生物、医学とあらゆる科学の分野で繰り広げられる大発見の連続を目の当たりに出来たのはとても幸運でした。そして、その間ずっと探し続けてきたのが、「なぜ自分はこの世に生まれてきたのだろう」という素朴な疑問への答えでした。


この本は、こうして私が肌身で感じ学んできた、ここ2030年の科学の驚異の発展の姿を皆さんにお伝えしながら、私たちそして宇宙の起源が一体どこまで分かったのかを、皆さんと一緒に探って行く旅です。まず、基礎となる物理法則の最新成果をまとめながら、宇宙の始まり、ビッグバンを解き明かしていきます。それは、宇宙創世の壮大な映画のフィルムを逆回しで映す作業です。幸いにも、その逆回転フィルムの重要な部分は完成しているので、かなり自信をもって強い口調で語ることが出来ます。それがこの本の前半です。

それならば、このフィルムを宇宙の始まりから正しい時間方向に早送りすれば、太陽はひとりでに輝き始め、地球が生まれて生命が誕生し、ゾウリムシが蟻に進化し、やがて私たちのような知性をもった人類が自ずとも生まれくるのでしょうか。 その映画のストーリーは全く自然でどこにも無理がなく、次々と繰り広げられるシーンは既に解明された自然法則に乗っ取って当たり前のように展開するのでしょうか。

それとも、その映画のフィルムは、ハラハラするような偶然と奇跡の連続で、どこかでほんの一度でも、この宇宙が「クジを引き損ねて」いたら、私たち人類には至らなかったどころか、ゾウリムシどころか、それどころか、地球も太陽も、へたをすると宇宙そのものもどこかで潰れてなくなってしまっていたのでしょうか。

この質問への答えが、後半に登場するこの本の主題部分です。

先に答えを言ってしまうと、驚くことに、この映画のフィルムがごく自然でありきたりなのか、それとも偶然と奇跡の連続なのか、その判断が難しいのです。一見すると 見慣れたシーンのようでも、よく立ち止まって考えれば考えるほど、偶然と奇跡の連続するハラハラ・ドキドキの映画のように見えるのです。

そこで、例えば素粒子の創成・生命の誕生の瞬間のような、とても重要な場面では、フィルムを止めてスローモーションでお見せし、出来る限りの解説を最新の科学成果を駆使して紹介してゆく、それがこの本の最大の目的です。

ここでもう少し専門的な用語で言うと、以下のようになります。この本の目的は、我々のように知性をもった生物がこの地球上に誕生するに至った背景には、何らかの合目的性があるのか、あるいはそれは単なる偶然の産物なの、そしてもし合目的ならば、その根本に潜む自然法則は一体何なのかを突き詰めていくことにあります。 

その中で触れてゆくのは 素粒子物理学・天文学・宇宙論・分子生物学・生命進化論、更には脳神経科学と多義に渡ります。ありとあらゆる最新のサイエンスの成果を駆使してゆくことになります。

それでは、宇宙創世の壮大な映画のフィルムの撮影現場に皆さんを御連れしましょう。


 You are at: